発進塔

448号 発進塔・選:譲葉の季節

掲載日:2022年05月01日

新緑が美しい季節である。駐車場に夏の木陰を作ろうと、昨年秋に植えた三十本の檜(ひのき)も遅ればせながら一斉に若葉が芽吹き、微風に揺らいで清々しい。 

ところで毎日を休日の気分でのんびり過ごしている最近の私は、樹木を観察したり、庭木の手入れをする時間も若干多くなった。といっても草引きをしたり、低木の枯れ枝を毟(むし)ったりする程度だが、そういった中ある発見をした。

緑黄色の小花を取り巻くように車輪状に新しい葉が生長している木が、庭の片隅にあった。ちょっと触っただけで、十センチ以上もある葉がパラパラと散った。何と言う木だろうと如水館の植物図鑑で調べて見たら譲葉という木であることが判った。何でも九州・四国から沖縄にかけて広く生息する広葉樹であるという。正月に飾ったりもするそうである。造園を依頼する際に庭に小鳥を呼ぶために実のなる黐(もち)の木を植えるよう依頼した際、縁起物として、一本の小さな苗木を植えてくれていたものらしい。

ちなみに、この木は春に新しい葉が生長すると、古い葉は譲ったように少しずつ落ちることからこの名前が付けられたという。しかし注目してよく見渡すと、この木に限らず殆どの常緑樹はこの季節、古い葉が少し色付いては地面に落ちている。これらを総称して最近では譲葉と言っている。譲葉は夏まで続くらしい。

これも今回知ったことだが、樹木は針葉樹と広葉樹に大別され、広葉樹はさらに常緑樹と落葉樹に分類されるそうである。落葉樹は初冬に紅葉し、人々の目を楽しませてくれるが、短期間に散るので後の掃除が面倒であると思ってきた。ところが掃除に関しては常緑樹の方が落葉する期間が長いので、そのぶん大変であるということも改めて知った。

自然も人も

古い葉は自然に落ちて肥料となり土となって新しい若い葉を育む。役割を終えた古い葉は決していつまでも枝にへばりついていたりしない。そして人間が邪魔をしない限り毎年これを繰り返して生長していくのである。

私は、毎日この現象を眺めながら、人間の営みも木と同じであると思うようになった。組織もまた然りである。組織が発展するには光合成が可能な若い葉が必要である。

昨日は久しぶりに内田皿山焼を訪ねた。作品の多様化と質が向上していることに感心した。これも、健太郎君いう新しい芽が加わって全体をそうさせているのであろうことがすぐ分った。素質があってのことであろうが何といっても若い発想は素晴らしいものを生み出しているのである。

私もこれまで色々な経験を積み重ねながら既に耳順の年を過ぎた。そして最近は何を見ても何を聞いてもあまり驚いたり抵抗感を持ったり、感動したりしなくなった。ひょっとしたらその分、周りの人々に当惑を与えたりしているのかもしれない。

私もそろそろ譲葉の時期のようでもあり、出来るだけ法(のり)を超えないようにだけはしたいものだと心得てはいるが、中々難しい。だが、事業を継承していくために早く若い芽を育てていかなければ、と感じている昨今である。

(2001.5 / 287号より)

 

一貫グループ会長
永野 義孝

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