発進塔

445号 発進塔・選:疾風に勁草を知る

掲載日:2021年11月10日

「疾風」とは厳しい風、「勁草」とは強い草のことである。普段には区別のつかない草々でも、いったん嵐となれば、弱い草は地べたに這いつくばってしまうが、強い草はそんな中でも、すっと頭をもたげている。嵐の強いときこそ、その真価が発揮されるのである。

これは中国の古典にでてくる言葉であり、人間だれしも勁草のように生きたいものである。そして、とくに望まれるのが組織におけるリーダーであり、管理職である。

昨今、医療をとりまく環境はきわめて厳しく、かつ流動的であるからこそ、その感を強くするものである。何故そうなってしまったのかを今更言ってみたところで詮無い事ではあるが、どうも官僚の先見性のなさ、医療機関の独り善がり、それに、次の選挙のことしか考えない政治家の無気力、こういったものが幾重にも絡んで、今日の状況をつくりだしたのであろうと考えられる。だが、我々は溜息ばかりついている訳にはいかないのだ。

従来は、どんな凡庸な者でも医療や福祉の事業を経営することができたものである。然しながら、現在は以前に比べて諸々の条件に大きな変化が生じてきており、経営者を含め、管理者の真価が問われるようになつて来たと思うし、まさに今からが、正念場であると考えている。

自省の言葉

では「勁草」のたくましさを身につけるにはどうすればいいか、疾風のときあわてない為にはどうすればいいのか。やはり日頃から、そういったときのあることを念頭において、自分を鍛えてゆくことが必要であると考える。それも少しずつでもいいから、毎日積み重ねてゆくことが大切である。昔、殷の国に湯王という人がいたが、この人は洗面器に次のような言葉を刻んで、毎朝顔を洗うたびに自己啓発に努めたと言い伝えられている。

  萄(まこと)に日に新たに

  日々に新たに

  又日に新たなり

日々、自分を向上させてゆく決意を表したものである。

また先日も紹介したのだが、彫刻家の圓鍔勝三先生のお宅に伺った折り、一枚の色紙をいただいた。それは先生が米寿の祝いに書かれたもので、自分の今までの歩みを振り返ると共に、なお、今後の指標として次のように書かれてあった。

  積み重ね

  つみ重ね

  積み重ねた

  上にも

  又積みかさね

立派な仕事を成し遂げる人というのは、なる程、日々の精進を怠たらなかった人である。

これは総ての人に望まれることであるが、組織における管理職には特に必要なことである。十年前も、五年前も、今も同じであるという管理職をたまに見受けるが、そんな人は変化に対応することが出来ないばかりか、組織をも駄目にしてしまう。

いざというときに慌てない為には、色んな事柄に対して普段から充分な検討をし、対策を用意しておくことが望まれる。

部下を鍛える

厳しい時代を生き抜いてゆくには、管理職すべてが「勁草」のたくましさを身につけなければならないが、これで充分かというと決してそうではない。職員一人ひとりが「勁草」のようになるよう努めなければならないのである。なぜなら、人間の能力には限りがあり、自分だけの力ではどうにもならないことが多いからである。

今からの時代を生き残り、法人の理念を追求してゆこうとすれば、管理職にある者の責任もまた重い。部下のやる気を引き出し、組織としての総合力を高めることができるようにしなければならない。今、その役割を大いに期待しているところである。

(1997.11 / 245号より) *表現は掲載時のまま

 

社会福祉法人慈永会理事長
永野 義孝

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